バグとチートの宝庫
サーバー停止の原因となったRCE問題の前にDS3がどういう状態にあったかを語らねばならない。
DS3はチーター天国と言っていい程にチートが広まっていた。またバグを利用した技も蔓延し、それらを使うもの知る者と、そうでない者との差に大きな違いを生んでいた。その中でもっとも有名なバグ技はエストキャンセル(通称エスキャン)で、回復の隙をキャンセルし、一瞬で回復動作を終える事によって、どんなに追い詰められても負けない状況を作り出せる、対人戦でのバランスを崩壊する技だ。ゲーム後半の対戦が多いエリアではこのバグ技を使わない人の方が少ないレベルで蔓延していた。他にも色んなバグ技があるが挙げていくときりがないほど多いのでこれだけにする。
チートの中でもっとも有名で、かつ最も酷いのが通常プレイでは手に入らない不正なアイテムを他プレイヤーに強制的に入手させ、その事によってゲーム側の不正検知システムに感知させてBANさせる、つまりオンラインプレイが出来なくなるチートだ。本来ある不正検知システムを逆利用したチートで、オンライン上のブラックリストに載るのか仕組みは分からないが、セーブデータを削除しようが元に戻すことができない。バグ同様、様々なチートがあり、数が多くてきりがないのでこれ以上は挙げない。
これらバグやチートは当然ながら相当数の被害者を生み、彼らは相当数の報告を開発会社に送ったはずだ。なにせ世界的に売れているタイトルで、発売後しばらくしてもかなりの人数が遊んでいたからだ。それら膨大な数の報告を開発・販売会社は数年にわたり完全に無視した。その結果チーターは増長し、先ほどのBANチートにゲーム進行をリセットし最初からプレイさせるチートと篝火を使用できなくなるチートも足した。未プレイの人の為に書くと、篝火はワープ装置を兼ねる拠点でこれが使えないとゲームが続行不可になる。BANされてオンラインプレイ不能に、ゲームは最初から、オフラインでもプレイ不可になる。この3つのデータ破壊チートが同時に一瞬で起こる。セーブデータを全削除すればゲームはできるがBANは解除されない。このチートは広く蔓延し、どこのDS3のコミュニティを見ても注意を呼びかける警告と、被害者の悲痛な叫びを見る位に広まった。これに関しても相当数の報告があっただろうが開発会社は対応せず、BANされた人も戻ってこなかった(海外メディアによると途中からBANを行わないようにしたという話もあるが、実際の所は分からない)。
こうしてDS3はバグとチートの宝庫になり、オンラインでのプレイはもはやゲームが成り立たなくなっていた。そして私もそのバグ、チートの被害者であり報告者の一人である。
ずさんな対応
報告をした時の対応は今でも忘れない。できるなら全文を載せたい所だが口外禁止だそうだ。対応を一言でいえば「曖昧な態度で逃げようとする」である。問題に対して対応するともしないともはっきりしない回答を続け、とにかく早くこのやり取りを終わらせようとし、こちらからの質問や提案は一切無視し、テンプレート的な回答も多かった。それはまるで官僚の答弁のような何とも言えない独特の欺瞞に満ちた文章であった。何度かやりとりをしたが、毎回唖然とする回答になってない滅茶苦茶な返答をされた。これが世界的に売れているゲーム会社のサポートなのかと心底驚き、自分達が販売してる物に起きている問題に向き合わず見て見ぬふりをして逃げようとする態度に心底落胆した。最終的に、一方的にもう対応しないという返答を送りつけられ、それきりになってしまった。結局何も解決、進展しておらず、チーターに破壊されたデータがそのまま残っているだけである。これを機に私はこのゲームをプレイするのをやめた。
このような状態を見かねた海外のmod製作者LukeYuiは「
blue sentinel」というmodを作った。これはセキュリティ的にPCを保護したり、バグやチートを検出するとそのプレイヤーとの接続を切断したり、セーブデータのバックアップを自動で取ったりするアンチチートmodである。この製作者は独自にDS3の問題点を調べ、この時点で後に大問題へと繋がる複数のRCE(リモートコード実行)も発見し開発会社へ報告していたが、私をはじめ多くの人と同様に完全に無視された。そしてこのままではまずいと思って作ったのがこのmodであると
fanbyteのインタビューで語っている(この記事はサーバー停止事件の経緯もしっかり書かれている)。私が見た幾つかの記事の中では2020年(2019という記事もある)には複数の問題を報告していたようだ。無視するときの返答は私がもらったものと同様に「開発に伝えます」だったらしいというredditの投稿もみた。
つまり、バグやチート、セキュリティ問題を承知していながら無視していたのだ。そしてサーバー停止するまで一切修正されなかった。当然だがプレイヤー全員がこのmodを知っている訳でもないし、modは完璧ではなく、エラーでゲームが落ちる事も多いし、全てを防げるわけでもない。そもそもmod使用は公式には認められていない。DS3のコミュニティでは何度も例のチート被害者の報告を見た。
SERVER DIED
そんな中新作のElden Ring(以下、ER)の発売が近づきネットワークテストが始まった。新作と言ってもDS4と言って差支えがないくらい同じエンジンの流用作なので、DSの問題が引き継がれているという疑問を誰もが持ったあろう。そして案の定、エスキャン(ERでは聖杯だが)ができるとの報告が多数挙がったのだ。膨大に来たであろう修正願いを無視し続けたのは、今更過去作にコストをかけたくないからなのではと思った人は沢山いただろう。そこまで余裕がある会社ではないので仕方がない、そうやって納得をさせてきた人も多いだろう。だが新作において過去の失敗の反省は全く生かされておらず、
エスキャン以外にも複数のバグがそのまま残っていたのだ。つまり仕方なく無視したのではなく、本当に全く完全に聞いていなかったことになる。
唖然としたであろう人物は他にもいた。前述のmod製作者LukeYuiではない別の人物nrssrは、今までとは違う、そしてもっと驚異的なRCEの問題をDS3で発見した。それはつまりERでもその問題が引き継がれていることを危惧したこの人物は開発会社にそのことを報告したが相変わらず無視しされ続けた。そしてこのままではERが大変な事になってしまうと思ったnrssrはストリーマーの配信中にそれを実行して見せるという行動に出たのだ。そしてやっと会社は問題に向き合いDS1~3のサーバーを停止した。
なぜ今まで無視し続けたのに今回は対応したのかというと、大々的にこの問題が有名になった為もあるだろうが、単にERの売り上げに影響が出るからであろう。DS3の問題なのにERを心配したり、DS1,2のサーバーも止まったのは同じエンジンを使い続けている事の証左である。先のfanbyteによれば初期作のDemon's Soulsにも同じ問題があると書かれているので最初から変わっていないという事である。
サーバー停止時に
DS3の開発環境がすでに無い事も発表された。これは時間がかなりかかる理由とした書いたのだろうが、それは私をはじめ数多くの人が報告した時に既に開発環境は無かった事を意味する。オンラインサービスが続いている中で、何か問題が起きた時にすぐに対応できる準備を怠っていた事だけでも驚くが、同時に何が起きても修正する気などハナからなかったという事にも驚く。当然サポートとのやり取りでこの事は教えてもらってない。直す気がさらさらないのに、何か対応するような曖昧な態度で逃げようとしていたのである。端的に言って嘘をつかれていた訳だ。
そしていざERが発売されると、すぐにチーターが蔓延しだした。先のmod製作者、LukeYuiは同じエンジンを流用しているのでDS3のチートをERに持ってくるのに5分とかからないと
VGCで発言していたがその通りになった(この記事も経緯が良くまとめられている)。そして、DS3で多数の被害者を出した
不正検知逆利用チートがERでも流行りだしたのだ。ネットワークテストでは無く、本サービスが開始されているのに、バグと同様全く報告を聞いてなかったのだ。今作から導入された、頼みの綱のEAC(Easy Anti-Cheat)も機能しているとは思えない。
問題はそこから
DS1~3のサーバーは今現在も止まったままだ。ERに集中しているだろうからDSに手を付けるのは相当先だろう。RCEを修正した所で大量のバグやチートの問題は残る。それらもついでに修正するのだろうか。チート被害によりプレイ続行不可になる人が大量に出た訳だがそれらの人の為の救済策を取るのだろうか。DS1/2は2種類存在し、1のリマスター版は別会社が作ったものであり、もう一つの旧DS1は
すぐにサーバー停止されなかったことを考えると管理すらしてなかったのではと疑う。そもそもDS1,2はプレイヤー数がかなり少ないので、最悪サービス終了になってもおかしくない。
さらに、当然だがチートやセキュリティ問題は一度対応したら終わりではない。今現在のERがそうであるように常に問題を監視し修正を継続的に行っていく必要がある。これら全ての問題を修正して、さらにサポートを続けていく体制を整えてサーバー復活というのは膨大なコストだろう。報告された時点で修正していれば最低限のコストで済んだはずだ。
この一連の対応がとても残念だ。バグやチート、セキュリティ問題を全部を見つけ出し対応するのは難しい、というかそんなことは無理だろう。ましてや発売から時間もたっている。だがその事が問題なのではない。問題はそれをずっと無視して放置し続けた事だ。サポートの一社員が勝手にこんな事はできない。つまり開発環境を捨てていた事からもわかるように、会社の方針として問題は無視するという事を決定しなければこんな事にはならなかったのだ。最終的にどうなるかいまだ道さえも見えない状況だ。
これらの情報は実際に私がサポートとやり取りした物以外は全部海外メディアで得た情報だ。つまり日本のゲームメディアはフロムソフトウェア、及びバンダイナムコの問題について全く報道していない。steam掲示板では今でも「何故サーバーが止まってるんだ?」と聞くユーザーが絶えない。国内メディアや、ユーザー自身の関心の薄さには驚きと同時に悲しさも感じた。好きなゲームについて調べたりしないのだろうか。この関心の薄さも放置体制に拍車をかけた要因の一つであろう。
しかしながら、この放置体制が問題の本質ではないと私は考える。DS3で起きた問題なのにDSシリーズ全部とERにも影響するのはエンジンを流用し続けているからだというのは上記の通りだ。売れたシリーズなので続編を出すのは普通のことだろうが、近年は今までメインだったアーマードコアシリーズも続編が出ず(まぁ、最終作のACV/ACVDはその後が出なくて当然の出来だったが)その他も一部を除きほぼ同エンジンの流用作しか作っていない。開発環境を既に捨てていた事も上記に書いた通りだ。さらに開発会社のデバッグはアルバイトに任せている事は
募集記事からわかっている。ユーザーサポートもアルバイトかどうかは分からなかった。これらから導き出されるのは2つの事だ。「いつものフロム」と余裕が無いという事だ。
「いつものフロム」というのは旧来からのACファンなら知っているだろうが、劣化コピーを繰り返し前作より作品ごとに酷くなっていくフロムの作風を揶揄した言葉である。上にも書いたばかりだがその結果、続編が何年も出ない(実際売れてない、特に海外が絶望)という状況になっている。ソウルシリーズが世界的に注目されただけで、本質的な会社の体制は何も変わっていないのではないかという予想である。
もう一つの余裕がないというのは以下のような事だ。私はアニメには詳しくないが
有名なアニメの制作会社の脱税事件があったが、その中で語られたことは私利私欲のために脱税したのではなく、業界にある低すぎる予算で作らなければならない慣習から来る不安による脱税であることが語られた(一応書くが、記事内にも注意があるように事件が起きたのは超有名作を公開する前)。この様な事がゲーム業界でもあるのではないだろうか。DS3は累計1000万本、ERは既に1600万本が売れたらしいが実際に開発会社が受け取る金はどれくらいなのだろう。同じエンジンを使いまわし続け、過去作のサポートをすぐに切らなければならないほど追い詰められているのではないだろうか。これらの事が問題の本質ではないかと私は推測している。
今回の話とは一旦離れるが、あるラジオ番組で興味深い話を聴いた。それはユーザーサポートは開発(本体チーム)に報告をせずにサポートチーム内で問題を解決すると評価が上がる、という事だ。どんな業種のサポートでもこういう事があるのだという。考えてみれば当たり前の話でもある。本体へ報告するという事は面倒ごとが増えるのであるから、本体側からすれば無い方が良い。面倒ごとを本体まで上げてくるというのはマイナス評価につながるというのがより現実的な表現だろうか。
これに関して思い当たる節がある。余程の事がない限りサポートへ連絡することは無いので実体験の数は少ないが、サポートへ質問した時に、驚くほど自前のサービスについて知識がなく、いい加減な情報で、結局問題は解決しなかったという事がある。自分たちが作ったサービスなのだから担当者に聞けば一発で分かるような質問にも全く答えられない。これに関してずっと疑問がぬぐえなかったが、これで説明が付く。本体に問題を上げてしまうとマイナス評価になる。サポートは大体外注(人件費の安い外国も多いらしい)で、激務で給料も安いそうなので、マイナス評価は何としても避けたい。だからサポート内の乏しい情報だけでなんとか問題を終わらせたいという圧力がかかるのだ。
これがフロムソフトウェアに当てはまるかどうかは勿論わからないし、調べようもない。だが曖昧な態度、何も教えてくれ無いというより何も知らない様な乏しい知識、とにかく問題を早く終わらせたいと言わんばかりの文章。上記の通り開発に全く知らせた形跡がない事などを考えるとこういう体制になっていても全く不思議ではないと思う。
以上の記事を書いてから時間が経過し、色々と状況が変わってきた。以下に時系列順で簡単なまとめを記しておく。
2022/8/25、
3のサーバー復旧が発表。予想通りRCEの修正だけでバグやチートの対策、誤BANの救済などはなかった。そうなればLukeYuiにMODのアップデートをしてもらわねば普通に遊ぶことも出来ないが、本人のコメントによれば実生活が忙しくて更新はすぐにできないそうだ。
Sream Chartsによる人数も復旧後はまぁまぁ戻ってきたがその後は下降気味で現在はサーバー停止していた時と同じ程度に戻ってしまった。また
サーバーの不安定さも報告されており全くマッチングが出来ない時もあるらしい。
2022/10/25、
2の新版のサーバー復旧と、
Prepare To Die Editionの終了が発表。2と1はプレイヤー数の少なさからサポート終了する可能性も考えられたが1の旧版だけ終了する用だ。特に1の旧版は販売もされておらずプレイ人数もほぼいなかったので仕方ないだろう。2の旧版もほぼ人がいないが修正する様だ。というか、1と2は2バージョン存在させ続けていたのは今更ながら分かり難い。特に2は販売もしているし、名前も明確にリマスターとか名乗っている訳では無いので余計に分かり難い。
2022/11/09、
1の新版のサーバー復旧。
2022/11/30、
2の旧版のサーバー復旧。
2022/12/27、
Blue Sentinelがアップデートし、現在のDS3に対応した。
2023/1/12、DS3のアップデートがあったが、公式サイトには何も書かれておらず何が変わったのか分からない。Blue Sentinelは一部を除いてそのまま使えるらしいが、LukeYuiは忙しいのか呆れたのか、
Modの開発を他の人に譲ったそうだ。当然見ていないだろうが今までありがとうと言いたい。まさに孤軍奮闘。あなたがいなかったらもっと大変な被害が広がっていただろう。
2023/5/10、
DS1の新版がアップデートされた。今までのRCEやチートではなく、有名なスタッフロールが流れないバグが修正されたらしい。かなり昔から報告されていて、何年放置していたのか分からないが、なぜ急にこれだけ修正したのだろう。直す気があるなら、もっと色々な所を直したり、何よりチート対策もしっかりしてほしい。